パイプセレモニーが終わると、皆はそれぞれ寝床に向かった。私とラコタ兄はダイニングテーブルに残った。”スウェットの中での出来事を詳しく話しておきたい”、とラコタ兄が言ったからだ。
ラコタ兄はまず、落馬した女性に関するメッセージを話し始めた。スウェットの中に、馬のスピリットが現れて、ラコタ兄にメッセージを伝えてきたらしい。
「今から君に伝えるメッセージを、彼女にしっかり伝えておいて欲しい」 とラコタ兄が言った。
「今日起こった出来事は、単なる偶然などではなく、ちゃんとした意味があった。彼女はバランスを崩していた。落馬は、彼女自身がそのことに気付き、バランスを取り戻すために必要だった。馬はそのきっかけを作ったに過ぎない。
彼女に痛い思いをさせてしまったことを、馬のスピリットが詫びていた。でも馬は、重大な怪我にはならないような形で、彼女を落馬させた。馬のスピリットが、大怪我にはならないように守ったのだということを、彼女に知っておいてもらいたい。
彼女自身が今回の落馬事故からのメッセージに気付くのは、今すぐという訳ではない。もっと先のことになる。しかし必ず、彼女はこのメッセージに気付く事ができる。」
ネイティブ・アメリカンの言う ”バランス” というのは、Body, Mind, Sprit (肉体、精神、スピリット)のバランスの事を指す。彼女のどの部分がどんな風にバランスを崩していたのかは、ラコタ兄にも私にも分からない。それは、落馬した女性自身が、帰国後、元の生活に戻って落ち着いた頃に何かをきっかけにして気付くようになる、というのだ。ラコタ兄はこう続けた。
「馬のスピリットが、彼女にまた是非この大地に戻ってきてもらいたいと言っていた。また、この大地で馬に乗る機会が出てくる。その時彼女は、別の馬と出会うことになる。その馬は彼女のことをしっかり守ると約束してくれた。彼女は、その馬を必ず見付け出す事ができる。だから、彼女には必ず戻ってきてもらいたい」
彼女が聞いたら、喜ぶだろうな。彼女も馬が大好きなのだ。今回のことで、馬の事を怖いと思うようになったかもしれない。でも、次回彼女がまたこの大地に戻ってきたら、彼女の守り手となってくれる馬と出会う勇気を持って欲しいと思う。
***************
参加者の中で一番若い女の子の話題になった。ラコタ兄は 彼女のことを心配していた。彼女には、私のスピリットの姿が見えていた。それに、ボスのスピリット、白い力強いエネルギー体の存在も見えていたらしい。しかし 彼女は、とても奥ゆかしい性格なので、そのことを確信できないでいた。彼女に、“もっと自分に自信を持て” “君がスウェットの中で見たものは、ホンモノなんだよ” ということを伝えておいて欲しいと言われた。
***************
最後に、ラコタ兄は、私に対するメッセージの続きを伝えた。
私はスウェットの中でパートナーのことを話していた。去年私は、あるナバホ男性に出会った。彼はまだ正式に彼氏ではないが、この人がパートナーなのではないかと私は感じていた。ラコタ兄はこう言った。
「その人は君のパートナーではない。君はまだパートナーに出会っていない。君のパートナーは偉大な人物で、いろんなところを旅している。君は、焦る必要などないのだよ。もう少し、待っていなさい。悲しがる事はない。君は確実にそのパートナーと出会う事になっているのだから…。パートナーに出会ったら、君のスピリットは瞬時に彼のことを思い出す。君達はスピリットワールドでも、過去生においても、ずっと一緒に過ごしていたのだからね」
“パートナーに必ず出会える” という部分は納得できたが、“まだ出会っていない” という部分は腑に落ちなかった。私はこのツアーの後、そのナバホ男性と会う約束をしていた。週末には彼と “ラブラブキャンプ” に行く約束もしていた。(ラブラブキャンプというのは、私が勝手に呼んでいただけだ。そのキャンプのときに、彼のお気に入りの場所、彼だけの場所に連れて行ってくれることになっていた)
私が不満足な表情をしていることに気付き、ラコタ兄はクスッと笑った。
「どうであれ、君は気付くよ。そのキャンプは実現しない、とスピリットが言ってる。“君のお父さんの言う事を聞きなさい” とスピリットが言ってる。何の事か、分かるか?」
……。スピリットが何を意味しているのか、分かった。実はその “ラブラブキャンプ” と全く同じ週末に、ナバホ父が Beauty Way Ceremony を開く事になっていたのだ。どちらを優先すれば良いのか、と私は考えていたところだった。
……となると、今回の “ラブラブキャンプ” は何らかの形でキャンセルになり、私はナバホ父のセレモニーに参加する、ということか?……
これは私が心の中での問いかけだったのだが、ラコタ兄はニヤリと笑い、こう言った。
「その通り!」
**************
ラコタ兄は 「ちょっと、待っていなさい」 と私に声を掛け、ベッドルームから何かを持ってきた。セージとイーグルフェザーで作られた扇だった。それから、コップにきれいな水を注ぎ、私の目の前に置いた。
「君に祈りを掛けておきたい。このツアーで、最後までしっかり通訳という任務をこなせるように。このツアーの後、無事にナバホの大地に戻れるように。パートナーの事も含め、これからの君の人生、君がまっとうしなければいけない任務を、スピリット達が導き、守ってくれるように」
ラコタ兄はセージを両手の掌の中でくるくると丸め、小さなお団子を作った。それに火を点けて、スマッジングをした。セージの煙をイーグルフェザーの扇で私に扇ぎかけながら、ラコタ語で祈りを捧げてくれた。時折、コップの水にもセージの煙を扇ぎかけている
とても厳かな時間だった。私は、心を真っ白にして、ラコタ兄の祈りの言葉とセージの香りに、身を任せていた。
「君の場合…」 と、ラコタ兄が静かに言った。
「迷ったときには、こうやってセージでスマッジングして、きれいな水に祈りを込めると良いようだ。心を真っ白にして、祈りの水を飲み干す。すると、迷っていたことへの答えが与えてもらえるよ」
これはラコタ兄の意見ではなく、私のスピリットが彼にそう伝えているのだという。
「君は過去に、シャーマンとして生きてきた。近いうち君は、そのことを思い出すだろう。そうやってまた、大地と人々を癒すという役割を担っていく事になる」
このことは、ナバホのメディスンマンから何度も言われている。本当にいつか、そうなるのだろう。
****************
ラコタ兄の祈りのお礼に、私もナバホ式のお祈りをラコタ兄に掛けてあげることにした。
部屋から、タデディンバッグ(トウモロコシの花粉が入った、鹿革製の小袋)を取ってきた。
まず、ラコタ兄に、両手両足を伸ばして座ってもらう。両手は前に伸ばして膝の上に置いてもらう。この時、掌は天に向けておく。
右足の足裏、左足の足裏、右足の脛、左足の脛、胸の中心部、右の掌、左の掌、右腕、左腕、右肩、左肩、右頬、左頬、こめかみ、頭のてっぺん、舌に、トウモロコシの花粉をマーキングしていく。すべて、下から上に向けて行う。最後に、彼の頭上の周囲を時計回りに、トウモロコシの花粉を振り掛ける。
これが、ナバホ式のプロテクションの祈りだ。
彼がこの人生で、ビジョンをしっかりまっとうすることができるように。奥さんとのパートナーシップが、これからも実りあるものになるように。彼自身のスピリット、ガイドスピリット、グレートスピリット、クリエイターが、いつも彼と共にいて、彼を導き、守り、教えてくれるように。 と私は祈りをかけた。
*********************
それから私達は、兄と妹として、これからも助け合っていく事を互いに約束し、固いハグを交わした。
長い一日だった。私がやっと寝袋に入ったのは、午前4時を回っていた。
