スウェットを終えた翌日は、ベアビュートに登る予定だった。ここはラコタ語では、 Mato Paha (Bear Mountain ) と呼ばれている。ラコタ以外の人も、ビジョンクエストやセレモニーを行っている聖地だ。この聖地の中では、写真を撮ったり大声で話したりする事は出来ない。
ラコタ兄の家を出発したときには快晴だった天気が、ベアビュートに近付くにつれ、段々と雨雲と雷が寄ってきた。
ここは、ボスがビジョンクエストを行った場所だからだろう。ボスには男性雨と雷を呼ぶパワーがある。
ビジョンクエストというのは、白いバッファローの女がラコタに伝えた教えの中の一つ。
ビジョンの探求者は自分だけの場所を見付け、3メートル程の円を描く。そのサークルの中には、水以外のものは一切持ち込めない。人によっては自分の排出する尿も水のボトルに取っておいて、それを飲用することがある。
探求者は2日ないし4日間、このサークルの中で過ごす。食料は一切取らない。探求中には、このサークルから出るように仕向けることが、いろいろと起こる。孤独や恐れ、不安という内面的な障害、動物やヘビなどの出現という物理的な障害などだ。探求中はこのサークルの外に出てはいけない。様々な誘惑を振り切らなければ、ビジョンは得られないのだ。
この探求の中で探求者は、自分が何者なのかを認識し、今生でやり遂げなければならない使命を思い出す。そして、自己の成長、スピリチュアルな導きを ワカンタンカに祈り続ける。
この探求は自己の内面へと旅するもので、非常に過酷なものだ。 ビジョンクエストは crying for a vision とも言われている。
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ベアビュートを登り始めると、所々に色とりどりのタバコタイが木の枝に括りつけられているのが見える。 (タバコタイというのは、5センチ角くらいの小さな布にタバコの葉を詰めたもの。結ぶ時にはその人の祈りやコミットメントを盛り込む) あちらこちらから、いろんな種類のエネルギーが交錯しているのが感じられる。
途中まで登った辺りで、雨雲と雷がすぐそこまで来ているのが見えた。私達はツアーのお客さん達の体調を気遣い、頂上まで登るのを断念した。
その代わり、頂上手前の所で、一人になる時間を取ることにした。“みなさん、各自好きな場所に行って、祈りの時間を持つことにしましょう”、とボスが言った。
私は下の方まで降りていった。大きな岩が2つある場所を見付けて、その真ん中で祈りを捧げた。コーンポラン (トウモロコシの花粉) をオファリングして、 “この大地の人々(ラコタの人々)と、私達日本人、それにナバホの人々を含め他のアメリカ先住民の人々が、互いに協力し合いながら、この美しい大地、環境を守っていけるように”、と祈った。その場所では、男性的な力に満ち溢れていた。
祈りを終えて集合場所に戻ってきた時、みんなの表情とエネルギーは先程とは明らかに違っていた。
麓まで下りる時には、優しい雨が降ってきた。スウェットの後、シャワーを浴びていない私達にとって、この優しい雨は浄化のシャワーのように感じた。
車に乗ってから、一番若い女性客 がこんなことを私に言った。
「帰り道の雨は、あなたが呼んだのね。行きの時の、激しい雨と雷はボスが呼んだものなんだよね」
きっとそうなんだろう。ボスのエネルギーはとても男性的で、私のエネルギーはとても女性的なものだ。そういう意味で、私達はうまくバランスが取れている。だから私は、ボスと一緒に仕事をしていると、安心できるのだと思う。
