私が夫と出会ったのは、1998年12月。ナバホ父が自分の家族を紹介するため、家に連れて行ってくれたときだった。
夫はナバホ父の次男なのだ。
夫は私を初めて見たときのことを、今でもよく覚えていると言う。
私は当時付き合っていた男性と一緒に、ナバホ国を訪れていた。ナバホの伝統的な住居であるホーガンに宿泊させてもらい、翌朝そのホーガンからナバホ父の家まで歩いてくる私達の姿を、夫は見ていた。
夫には私の姿がキラキラと輝いて見えたらしい。
「君がこちらに向かって歩いてくるときに、君の全身が光に包まれて優しく輝いていた。この人が運命の女性だと直感した。君の事を随分前から知っていて、今生でまた再会できたと感じた」と。 私と結婚しようと思ったのは、この瞬間からずっと変わらない、と彼は言う。
夫は私達が付き合うようになる前から、このことを私に何度も話してくれた。
一方、私の方はと言うと、ナバホ父の次男、つまりナバホ弟としてしか、彼を見ることができなかった。何せ、12歳も年下なのだ。 当時彼はまだ高校を卒業できずにいて、ナバホ両親の世話になっていた身だったし、表情も子供っぽくあどけなさが残っていた。
だから、夫が愛の告白めいたことを言うとき、私はいつも笑顔で「気持ちだけもらうよ、ありがとう。 でも私はあなたのことを恋愛対象としては見れないよ」 と返していた。
すると、彼は決まってこんな風に返してきたものだった。 「君は俺と結婚するよ。 俺は知ってるんだ。 時が教えてくれるさ」 とゆったりと構えていた。
出会いから7年くらいは、姉と弟という関係だった。 ナバホ両親とナバホ弟と私、というこの4人で、よくキャンプやセレモニーに出かけた。 この4人で一つのテーブルを囲んで食事をすること、一緒に出かけることが多かった。 ナバホ両親は私と弟のことを 「私達の子供達」 と表現していた。 私と弟は本当に仲が良かった。 胸ぐらをつかみ合ってケンカしたこともあるけど、仲が良いからこそのきょうだいゲンカの類なのだ。 ケンカの内容は本当につまらないもので、家の工事をしている最中にどちらがセメントを投げただとか、お前の方が羊の肉を多く食べただとか、そういったことだ。 どちらがお詫びにコーラを買ってきたり、アイスクリームをおごったりすることで、私達のきょうだいゲンカはあっさり終わる。
ナバホ母は、弟が私のことを愛していて結婚したがっていることをずっと前から気付いていた。 だから時折私達に、「あんた達、本当に仲が良いわね。 磁石みたいな関係なのね。 どんなことがあっても引き合ってまた元通り仲良しになる。 あんた達が結婚したら良いのに」 と言っていた。 私は決まって母に 「それは100% ありえない」 と返し、弟は 「時が教えてくれるさ。 俺達は結婚する運命なんだから」 と返したものだった。
彼との関係が急速に変わっていったのは、出会いから7年経った頃のことだった。 ひょんなことから、弟が私にキスをした。 そのキスに、私はドキッとした。 そこから私の彼に対する気持ちが変わっていったのだと思う。
彼との関係がボーイフレンド・ガールフレンドに変わり、それでもやはり年齢差が気になって、元の関係(姉と弟)に戻してくれるように頼んだ。 付き合って、また元の関係に戻して・・・ そんなことを数回続けたと思う。
その後、彼はアメリカ陸軍に入隊し、アリゾナ州の基地に配属された。
私達が出会ってから9年目の夏。 私はサウスダコタ州のツアーの仕事の後、彼を訪ねた。
彼は私と一緒に過ごすため、一週間の休暇を取ってくれた。
久しぶりの再会。 その初めての夜に、彼は話し始めた。
「君には何度も話したけど、俺は初めて君の姿を見たときにこの人と結婚しようと決めたんだ。 君の全身をキラキラとした光が覆っていて、すごくキレイだった。 君に何度も愛の告白をしたのに、君はいつも本気にしてくれなかった。 あの頃の俺には仕事がなかったから、君が本気にしないのも当然だよね。 でも今、俺はちゃんと社会人になり、君のことを迎える準備ができた。 これからの人生を君とともに歩いていきたい。 年齢差はずっと変わらず、残っていく。 でも年寄りよりも若い夫を持つ利点ってたくさんあると思うぜ。 今日は君に正式にプロポーズしたい。 ボクと結婚してくれますか?」
照れながらではあるが、彼なりの言葉で一つひとつ丁寧に、話してくれた。
年下だけど、私達はすごく仲良しだ。 彼になら、隠し事や嘘を言う必要がなかった。 これからもきっとそうだろう。
私は彼に 「わがままで泣き虫で、強情で年寄りだけど、こんな私で良ければ、これからの人生をともに生きていこう」 と返事をした。
彼はニコッと笑って、私に目を閉じるようにと言った。 それから小さなダイヤの婚約指輪を私の左手薬指にはめた。
「目を開けていいよ」と彼が言うので、見てみると、とても小さなダイヤに、とても大きなサイズの指輪。 あまりにもぶかぶかなサイズなので、ダイヤはくるりと回って下向きになった。
「あのさー、プロポーズするならフィアンセの指のサイズくらい覚えておきなよ」 と私が言うと、「これ、アメリカ女性の平均サイズって店の人に言われたんだよね。 まさかこれほどまでにぶかぶかになるとは・・・」 と彼。 結局、その翌日に指輪を購入したお店に行き、サイズ直しを注文することになった。
彼は女性に指輪を買ったのは初めてだったから、平均サイズを買えばぴったり合うのだと思っていたらしい。
私の夫は、心がキレイで、ピュアな人だ。 とても優しい人。 人間に対しても、動物に対しても、植物に対しても。 もちろん、私に対しても。
スピーディーにチャカチャカと物事をこなせるタイプではなく、じっくり時間をかけてこなしていく人だ。
彼は、「アリとキリギリス」 の物語の中では間違いなく アリ だし、「ウサギとカメ」 の物語の中では間違いなく カメ だ。 それとは真逆に、私は キリギリス であり、ウサギだ。 早飲み込み・早とちりして、急いできた。 人よりも多く挫折を味わい、頭を打って傷つき、心がささくれ立ってしまった。 金平糖のように心がトゲトゲの私と、やわらかめのグミのようにポヨポヨの彼。 実はすごく合っているのかもしれない。
私はこの人と結婚させてもらえたご縁に、心から感謝している。
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ちなみに、私は彼に素朴な質問を投げかけたことがある。
「あなたは私達が結婚する運命だったといつも言うけど、結婚するべきパートナーならどうして私と同じくらいの時期にこの世に誕生しなかったのよ? どうして私よりも12年も遅れたのよ?」
夫はこんな風に返答した。
「中間生にいるとき、生まれる順番を待つスピリットが長蛇の列をなしていた。 俺は君と同年代に生まれるべく、我慢強く列に並んで待っていたんだけど、後ろから来たスピリットが俺の前に何人も何人も割り込んできたんだ。 君も知っている通り、俺は人が良いから割り込まれてもケンカしたりせずにただ黙々と列に並び続けたから、君よりも少し出遅れたんだよ」
うまい言い訳だなと思う反面、夫の性格を考えてみると、案外本当なのかもしれないとも思う。
ま、年齢はあまり関係ないのかもしれないなー。