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  • 「父の講義ーナバホ哲学」ナバホ体験記

    父の講義は、こんな内容だった。

    私達はみな、生まれる前に母の子宮にいた。暖かい水の中で居心地の良い所。平和そのものだ。しかし、ある一定期間を過ぎると、私達はその平和な場所から出て来なければならない。それが誕生だ。

    生まれてきて初めて私達は空気を吸い、泣き始める。その泣き声は似通って聞こえるものだが、実際には1人として同じではない。ホーリーピープルは、この違いを聞き分けることが出来る。

    私達はいつも守られている。ナバホ哲学では、体の7つの部位にはそれぞれエネルギーを与えてくれる、もしくは影響を与えてくれる部位があると信じられており、それぞれ身に着けるべきアクセサリーや衣装が決められている。

    1) Left leg 左足ーー父方の祖父

    2) Right leg 右足ーー母方の祖父

    3) Left hand 左手ーー父方の祖母

    4)Right hand 右手ーー母方の祖母

    5) Heart 心ーー母

    6)Head 頭ーー父

    7)All 全体ーー自分自身

    昔のナバホの人達が各部位にそれぞれターコイズのネックレス、ブレスレット、そしてバックスキンの服とモカシンを身に着けるのは、自分につながるスピリット達に守りを請うためであり、またスピリット達に気付いてもらうためだ。単なるアクセサリーなどではなく、それぞれ神話に基づく由縁や意味がある。

    頭のてっぺんには、羽飾りを付けていた。これはガイドスピリットを意味する。

    幼い頃には誰かの助けを借りて生きていく。ある一定の時期を過ぎると、少年・少女は一人前の大人の男・女に変化する。ナバホでは「キナスタ」・「キナルダ」というセレモニーを行い、ホーリーピープルに報告する。

    そうして大人になった男・女は、それぞれ自分の足で歩き始める。Corn Pollan Road を歩く事、つまり自分のスピリットの声に従ってビジョンをまっとうする事が人生の目的だ。

    ビジョンに従って生きていく時には、学びのプロセスを踏む事になる。ナバホ哲学ではこのプロセスを4つの色、4つの段階で説明している。

    1.黒の段階: 物事を始めようとする段階。思考の段階。何事もはっきりとは見えてこない。ただ想像だけが行き交う。ある時には混乱して何もかもが駄目なように見え、またある時には全てがうまくいくように見える。

    2.青の段階: 実行する、試してみる段階。口に出してみる段階。積極的に推し進めていく必要がある時もあるし、またある時にはじっと待って受動的に受け取る必要もある。

    3.黄の段階: 周囲の人達の意見や知恵を聞く段階。話し合う段階。ポジティブな意見もネガティブな意見も両方出てくる。それらを全て選り好みせずに聞き、学ぶ必要がある。

    4.白の段階: 現実化する段階。ポジティブな結果もネガティブな結果も、両方が出てくる。

    このプロセスの途中にはいろんなことが起こり得る。自分のビジョンが見えなくなったり、自分自身が見えなくなったりして Corn Pollan Road を見失ってしまったときには、beauty way ceremony や blessing way ceremony を行って、スピリット達に助けを求める。

    最終的にはあらゆるものが調和の元にポジティブな結果を生み出すことが目的だ。

    そこに至るまでにはいろんなプロセスを超えていかなければならない。そして何よりも大切なのは、自分を見失わない事。自分という人間を見守っているスピリット達が存在するということ、自分の生まれてきた目的をもう一度思い出すことが大切だ。


  • 「父の講義 ー 家族の紹介」ナバホ体験記

    翌朝私はギャラップ駅に着いた。父が駅まで迎えに来てくれた。

    父は私に会うなり、「今日の夕方、俺は大学でナバホ哲学についての講義をするんだ」と言った。昨日弟が電話口で言った「ちょうど良かった」とは、この講義に私が間に合うようにと思っていたのだろう。

    それからバタバタと準備をして、両親と私の3人は大学へ向かった。

    講義の最初に、父は母のことをこんな風に紹介した。

    「私の大切なパートナーです。彼女は私の一部でもあります。私達が一緒になってから、もう 32 年の月日が流れました。私達は決して、仲むつまじい夫婦などではありません。しょっちゅう喧嘩をするし、離れようと思ったことも一度や二度どころでは無いからです。けれども最後には、いつも仲直りをすることになります。私は彼女と共に生きています。

    彼女がいなければ、私はここまで来れていなかったと思います。普段は照れくさくてなかなか言葉にできないので、今日この場を借りて、私のパートナーにお礼を言いたいと思います。いつもありがとう」

    母は薄っすら涙ぐんでいるようだった。それから父は私の方に向き直り、こう紹介した。

    「この子は私達の娘です。血のつながりはないけれど、私達夫婦はスピリチュアルな方法で彼女を養子として迎え入れました。

    彼女のスピリットは『優しい水・女性の水』です。彼女は gentleness そのものです。誤解してもらいたくないのは、この gentleness とは、人や環境に流されるような弱いものではないということです。

    女性の水は、大地をしっとり潤してくれる命の源であり、エネルギーです。でもその優しいエネルギーの一方では、周囲のものを一気に流し去り環境をまるきり変えてしまうほどのパワーも秘めています。どんな武器や兵器や敵にも勝るほどの強さを秘めているのです。

    彼女自身もそうです。私はこの子に初めて会った時、瞳の奥に秘められた強さに気付きました。ところが、彼女はまだ自分の中に潜んでいる強さに気付いていません。

    優しさと強さの両方をバランス良く使えるようになることが、これからの彼女の課題です。 彼女にはまだまだたくさん学ぶ必要があるようです。

    私達夫婦には息子が2人いますが、娘はいません。娘を持つのが初めての新米親ゆえに、娘にどう接すれば良いのかとまどうこともあります。一つ分かっているのは、彼女を娘として迎えてから、私達はかけがえのない経験をさせてもらっているということです。

    彼女は自分のビジョンを信じて、この大地にやってきました。私達は彼女の勇気を尊敬しています。そして出来る限り助けてあげようと決めました。娘にも、今日この場をお借りしてお礼を言いたいと思います。私達の娘になってくれて、ありがとう。君が進む道のりはまだまだ遠い。一緒に頑張っていこう」

    その場にいた人達全員が一斉に拍手をし始めた。それから1人ずつ立ち上がり、私のところまでやってきて握手をし、ハグをしてくれた。みんなそれぞれ 「頑張れ!」 と声を掛けてくれた。

    嬉しかった。とても嬉しかったし、感動していた。

    それから父の講義が始まった。


  • 「ロサンゼルスまでの旅」ナバホ体験記

    ロサンゼルスまでの旅は、大きな問題もなくスムーズに流れた。

    私はいつもナバホの大地を去るときに涙をこぼすのだが、今回はそんな必要は無かった。 今回は数日後に、またこの大地に戻ってくるのだから。

    一泊目はセドナに泊まった。以前泊まったホステルに行ってみた。以前親切にしてくれたココ・ナンバーワンに会いたかったのだが、残念なことに彼女はもういなかった。経営不振でオーナーが変わったのだそうだ。

    セドナで1泊、それからバーストウで1泊、ロスに到着してから2泊した。旅で出会った人たちは皆、親切にしてくれた。

    セドナでは IBM の重役だという男性と共に、ハイキングに出掛けた。

    バーストウで入ったタイレストランのお客が、私にディナーをご馳走してくれた。(私が貧乏そうに見えたのかもしれない)

    ロスではいつも見慣れた光景の中で、ビーチで散歩したりローラーブレードを楽しんだりした。そうして、心が十分にリフレッシュできたのを感じた。

    火曜日の夜、アムトラックのロサンゼルス駅からナバホ両親の家に電話をした。電話に出たのは弟だった。

    彼は「ちょうど良かった」と言った。何がちょうど良いのかと聞き直してみたが、周囲の騒音がひどくて、弟の言った言葉が聞き取れなかった。

    とりあえず、私が今から電車に乗る事だけは伝わっているはずだ。明日朝にはナバホの大地に戻れる。そう思うと、ワクワクしてきた。

    私は満面の笑みで電車に乗り込んだ。