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  • 「結果がすべて」ナバホ体験記

    撮影は無事に終了。

    スタッフのほとんどは、私と同年代で気さくな人達だった。 普段は冗談を言って笑いが絶える事が無いのだが、いざ本番撮影になると、瞬時にプロの表情に変わる。 空気もピンと張り詰めたものになるのが驚きだった。 タレントさんの集中力にも驚かされた。 本番になると、テレビ用の表情になり、良いコメントをする。 その気持ちの切り替えの早さがとても印象的だった。

    スタッフの方が言った言葉で、今も強烈に残っているものがある。それは、「テレビの世界では結果が全て」という言葉だ。

    「撮影中にスタッフがどんなに苦労して汗水流しても、涙を流しても、それは結果として表れない限り認めてはもらえない。緊張の連続なんだ」と。

    番組は泣いても笑っても一度きり。 結果というのは視聴者の反応(視聴率)である。

    「この仕事を始めた頃は、収録が終わる毎にヘトヘトになって、あれこれ落ち込む時期もあったけど、今はもう違う。 一つ終わったらすぐに気持ちを切り替えて、次の番組作成に集中する。 終わったものをとやかく言っている暇なんか無いからね」

    そう話すスタッフさんの表情は、強いエネルギーに満ちていた。

    撮影が終了してホテルに戻ると、スタッフは全員溶けるように眠った。 ADさんはあまりに疲れていたからか、部屋のドアを閉めることすら忘れ、ソファーに座った途端に深い眠りに入ってしまった。 撮影本番に全力を尽くしていたので、疲れたのだろう。 こんなことが撮影毎に起こるのだから、本当に大変な職業だと思う。

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    後日、スタッフさんから放送用テープのコピーが届いたので、ナバホ家族と共に番組を見させてもらった。

    ナバホでの取材は丸二日を要したのに、実際に写っているシーンは僅か20分ほどだった。 短い時間内ではあったが、とても良いメッセージが凝縮されていたので、私達は全員、大いに満足した。

    ほんの一瞬ではあったが、私の名前もエンディングテーマに載せて下さっていた。 嬉しくて、何度も何度もビデオを巻き戻しては、自分の名前を確認したものだった。

    今回のテレビ取材協力では、本当に貴重な体験をさせていただきました。

    私を参加させて下さったすべての皆様と、私を応援してくれたスピリット達とホーリーピープル達に心から感謝します。

    この貴重な体験は、生涯ずっと忘れることはありません。


  • 「スウェットロッジセレモニー」  ナバホ体験記

    いよいよ撮影当日を迎えた。朝5時に起きて家族と段取りの確認、それに昨夜もらった台本の中身を家族に説明する。7時にはナバホ父と共にスタッフの泊まっていたホテルに出向き、段取りの最終確認。

    私がメインで取材協力したのはスウェットロッジセレモニーなので、ここでスウェットの説明をしておきたい。

    スウェットロッジとはアメリカインディアンに伝わる浄化の儀式の一つである。ホーガンと同様、半球体をしており、材料は全て自然のものだけ(土と丸太)で作られる。スウェットの中は母なる大地の子宮をシンボライズしている。

    全てのセレモニーに共通するのであるが、生理中の女性は参加を許されない。女性の生理というのは新しい生命をこの世に生み出すという神聖なパワーを持っているので、セレモニー内での神聖なパワーと力が勝ち合わない様にするためである。余談だが、スウェットに生理中の女性が参加するとどうなるか?確かにパワーの競争が起こり、参加者全員が危険な目に遭う。これを私は2回体験した。参加者全員がひどい頭痛と吐き気に襲われるのである。

    ご存知の通り、アメリカ全土には500程の異なったインディアン部族が存在し、スウェットの方法はそれぞれの部族毎に異なる。例えばラコタ族のスウェットでは焼き石を入れて、水を注ぎ蒸気を発生させのだが、ナバホ式では水を使わない。これはナバホ神話に由来する。

    ナバホ神話に、こんなくだりがある。

    人間の犯した間違いによってモンスターが生まれるようになった。モンスターの数はどんどん増え、人々に危害を加えるようになった。そこでナバホ神話の英雄である「双子の兄弟」がモンスター退治に必要な武器をもらいに、父である「太陽」に会いに行くのである。「太陽」は子供達の体力、精神力、スピリチュアリティを試す為、スウェットを行う。赤く燃えた焼き石に大量の水を掛けて、スウェット内の温度をどんどんと上げていく。これは父が子供達に課したテストだった。普通の人間なら死んでしまっていたであろう、この難解なテストに双子の兄弟は合格する。それによって、「太陽」は息子達の能力を認める。それ以来、ナバホ式スウェットでは水を使った厳しい条件下のスウェットは行わなくなった。「父」である太陽は既にナバホを自分の子供だと認めたからである。ナバホ式スウェットは他の部族のものに比べ、比較的マイルドな温度でゆったりと行われる。

    ナバホ式スウェットの目的は大きく分けて3つ。

    1)Teaching (教え)

    2)Cleansing (浄化)

    3)Healing (癒し)

    1番目の「教え」とは、私達人間は、父なる宇宙と母なる大地、それから地球に存在する全ての生物、4大要素(火、空気、風、水)そのものなんだということを参加者に再認識させること。スウェットの中で私達は汗を出す。私達自身が水であるという認識をする。汗(水)を出すことは自然界に水を返すことになる。その代償として自然界から大いなる知恵をもらう。これは自然界で共存していく大事な鉄則。つまり自然に何かを借りると、代わりの何かを提供する必要があるのだ。常にギブアンドテイクを行う。教えを「聞く」ことは、私達に「考える」機会を与えてくれる。考えて思ったことを「話し」てみる。話し合いを行うことによって「知恵」を分かち合うことが出来る。その結果、最良の「方法」が見付かる。この最良の方法を「実行」する。これがナバホ式のプロセスである。

    2番目の「浄化」とはBody(身体)、Mind(心)、Spirit(魂)の浄化。そしてそれらをバランス良く統合させること。体とは健康。心とは思考。スピリットとはスピリチュアルな感覚。それら3つの要素のレベルをバランス良く上げること。どれか一つでも欠けてはいけない。例えば、良い健康状態を維持すると、思考がポジティブになる。すると心のレベルが上がる。心と体という二つのレベルを上げることは比較的簡単。しかしスピリットのレベルを上げるのは難しい。大抵の人は、心と体のレベルに、スピリットのレベルが釣り合わない為、バランスに欠ける。その結果、不眠症などの問題が生じてしまう。

    ではスピリットのレベルを上げるにはどうすれば良いのか?まずは自分自身がスピリットなのだという認識を強く持つこと。また、自分というスピリットは自然界に存在する全てのスピリットと通じている、一つであるという認識を持つこと。その結果、自分自身を大切にすること、守ることが、自然界のあらゆる生物や要素を守ることなんだと気付くことになる。

    3番目の「癒し」とは、母なる大地の子宮に戻ること、母なる大地に抱きしめてもらうことによって、心、体、スピリットの成長をブロックしているものを取り外し、元の正常な状態に戻してもらうこと。

    そうして2時間ほどのスウェットが無事に終了した。スウェットの効果というのはスウェットを終えた直後に起こるものではない。時間を掛けて徐々に心、体、スピリットのレベルがバランス良く向上するのだ、とナバホ父は話していた。

    スウェットを体験したタレントさんは、「良い時間を過ごせた」と感想を述べていた。私達家族は出来る限りの情報を伝えた。あとは実際に体験したタレントさんや、それを見た視聴者がこのメッセージを正しく理解してくれることを祈るのみ。


  • 「スタッフとの最終打ち合わせ」  ナバホ体験記

    本番当日の前夜9時から、テレビ局のスタッフとの最終打ち合わせがあった。 この日ナバホ父は仕事で疲れ切っていたので、私だけが参加。

    スタッフから台本をいただき、時間的な変更を告げられた。 スウェットと食事の時間を逆にして欲しいとのこと。 そうなると、私達家族が立 てた詳細なスケジュールを再度変更しなければいけない。 それにナバホ父からの要望を伝えなければならなかった。それはスウェットロッジ内での通訳を私にやらせること。

    ナバホ父からそれを言われた時は、本当にビックリした。 テレビ局側にはプロの通訳さんがいるし、私なんかにそんな大役が務まるのだろうか?

    ナバホ父はこう言った。

    「今回のスウェットは、本当のセレモニーとして行なう。 テレビ撮影用に嘘のセレモニーは出来ない。 間違った情報を伝えたくないからだ。 君は俺の娘だ。 長年俺の元でナバホの伝統やセレモニーを学んできた。 君に通訳をやってもらいたい。 テレビ局側がこの要望を断ったら、俺もこの件は降りる」

    「これは俺だけの意思じゃない。 ホーリーピープルの意思なんだ。 俺はそれを感じる。 君がやらなきゃいけない。 自信を持てよ。 ホーリーピープルがきっと助けてくれるから」

    ホーリーピープルとは、ナバホを守ってくれているスピリットであり、神的な存在のことだ。

    打ち合わせの場でスタッフさんたちにナバホ父の要望を伝えると、あっさりと承諾してくれた。

    スタッフとの打ち合わせが終わって家に帰りついたのは夜中2時を過ぎていた。

    再度台本に目を通し、段取りやナバホ父の台詞を頭の中に叩き込む。

    どうか今回の番組で、日本の視聴者の方々に良いメッセージを送ることが出来ますように・・・。