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16 ラコタ兄との小さなセレモニー ラコタツアー
パイプセレモニーが終わると、皆はそれぞれ寝床に向かった。私とラコタ兄はダイニングテーブルに残った。”スウェットの中での出来事を詳しく話しておきたい”、とラコタ兄が言ったからだ。
ラコタ兄はまず、落馬した女性に関するメッセージを話し始めた。スウェットの中に、馬のスピリットが現れて、ラコタ兄にメッセージを伝えてきたらしい。
「今から君に伝えるメッセージを、彼女にしっかり伝えておいて欲しい」 とラコタ兄が言った。
「今日起こった出来事は、単なる偶然などではなく、ちゃんとした意味があった。彼女はバランスを崩していた。落馬は、彼女自身がそのことに気付き、バランスを取り戻すために必要だった。馬はそのきっかけを作ったに過ぎない。
彼女に痛い思いをさせてしまったことを、馬のスピリットが詫びていた。でも馬は、重大な怪我にはならないような形で、彼女を落馬させた。馬のスピリットが、大怪我にはならないように守ったのだということを、彼女に知っておいてもらいたい。
彼女自身が今回の落馬事故からのメッセージに気付くのは、今すぐという訳ではない。もっと先のことになる。しかし必ず、彼女はこのメッセージに気付く事ができる。」
ネイティブ・アメリカンの言う ”バランス” というのは、Body, Mind, Sprit (肉体、精神、スピリット)のバランスの事を指す。彼女のどの部分がどんな風にバランスを崩していたのかは、ラコタ兄にも私にも分からない。それは、落馬した女性自身が、帰国後、元の生活に戻って落ち着いた頃に何かをきっかけにして気付くようになる、というのだ。ラコタ兄はこう続けた。
「馬のスピリットが、彼女にまた是非この大地に戻ってきてもらいたいと言っていた。また、この大地で馬に乗る機会が出てくる。その時彼女は、別の馬と出会うことになる。その馬は彼女のことをしっかり守ると約束してくれた。彼女は、その馬を必ず見付け出す事ができる。だから、彼女には必ず戻ってきてもらいたい」
彼女が聞いたら、喜ぶだろうな。彼女も馬が大好きなのだ。今回のことで、馬の事を怖いと思うようになったかもしれない。でも、次回彼女がまたこの大地に戻ってきたら、彼女の守り手となってくれる馬と出会う勇気を持って欲しいと思う。
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参加者の中で一番若い女の子の話題になった。ラコタ兄は 彼女のことを心配していた。彼女には、私のスピリットの姿が見えていた。それに、ボスのスピリット、白い力強いエネルギー体の存在も見えていたらしい。しかし 彼女は、とても奥ゆかしい性格なので、そのことを確信できないでいた。彼女に、“もっと自分に自信を持て” “君がスウェットの中で見たものは、ホンモノなんだよ” ということを伝えておいて欲しいと言われた。
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最後に、ラコタ兄は、私に対するメッセージの続きを伝えた。
私はスウェットの中でパートナーのことを話していた。去年私は、あるナバホ男性に出会った。彼はまだ正式に彼氏ではないが、この人がパートナーなのではないかと私は感じていた。ラコタ兄はこう言った。
「その人は君のパートナーではない。君はまだパートナーに出会っていない。君のパートナーは偉大な人物で、いろんなところを旅している。君は、焦る必要などないのだよ。もう少し、待っていなさい。悲しがる事はない。君は確実にそのパートナーと出会う事になっているのだから…。パートナーに出会ったら、君のスピリットは瞬時に彼のことを思い出す。君達はスピリットワールドでも、過去生においても、ずっと一緒に過ごしていたのだからね」
“パートナーに必ず出会える” という部分は納得できたが、“まだ出会っていない” という部分は腑に落ちなかった。私はこのツアーの後、そのナバホ男性と会う約束をしていた。週末には彼と “ラブラブキャンプ” に行く約束もしていた。(ラブラブキャンプというのは、私が勝手に呼んでいただけだ。そのキャンプのときに、彼のお気に入りの場所、彼だけの場所に連れて行ってくれることになっていた)
私が不満足な表情をしていることに気付き、ラコタ兄はクスッと笑った。
「どうであれ、君は気付くよ。そのキャンプは実現しない、とスピリットが言ってる。“君のお父さんの言う事を聞きなさい” とスピリットが言ってる。何の事か、分かるか?」
……。スピリットが何を意味しているのか、分かった。実はその “ラブラブキャンプ” と全く同じ週末に、ナバホ父が Beauty Way Ceremony を開く事になっていたのだ。どちらを優先すれば良いのか、と私は考えていたところだった。
……となると、今回の “ラブラブキャンプ” は何らかの形でキャンセルになり、私はナバホ父のセレモニーに参加する、ということか?……
これは私が心の中での問いかけだったのだが、ラコタ兄はニヤリと笑い、こう言った。
「その通り!」
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ラコタ兄は 「ちょっと、待っていなさい」 と私に声を掛け、ベッドルームから何かを持ってきた。セージとイーグルフェザーで作られた扇だった。それから、コップにきれいな水を注ぎ、私の目の前に置いた。
「君に祈りを掛けておきたい。このツアーで、最後までしっかり通訳という任務をこなせるように。このツアーの後、無事にナバホの大地に戻れるように。パートナーの事も含め、これからの君の人生、君がまっとうしなければいけない任務を、スピリット達が導き、守ってくれるように」
ラコタ兄はセージを両手の掌の中でくるくると丸め、小さなお団子を作った。それに火を点けて、スマッジングをした。セージの煙をイーグルフェザーの扇で私に扇ぎかけながら、ラコタ語で祈りを捧げてくれた。時折、コップの水にもセージの煙を扇ぎかけている
とても厳かな時間だった。私は、心を真っ白にして、ラコタ兄の祈りの言葉とセージの香りに、身を任せていた。
「君の場合…」 と、ラコタ兄が静かに言った。
「迷ったときには、こうやってセージでスマッジングして、きれいな水に祈りを込めると良いようだ。心を真っ白にして、祈りの水を飲み干す。すると、迷っていたことへの答えが与えてもらえるよ」
これはラコタ兄の意見ではなく、私のスピリットが彼にそう伝えているのだという。
「君は過去に、シャーマンとして生きてきた。近いうち君は、そのことを思い出すだろう。そうやってまた、大地と人々を癒すという役割を担っていく事になる」
このことは、ナバホのメディスンマンから何度も言われている。本当にいつか、そうなるのだろう。
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ラコタ兄の祈りのお礼に、私もナバホ式のお祈りをラコタ兄に掛けてあげることにした。
部屋から、タデディンバッグ(トウモロコシの花粉が入った、鹿革製の小袋)を取ってきた。
まず、ラコタ兄に、両手両足を伸ばして座ってもらう。両手は前に伸ばして膝の上に置いてもらう。この時、掌は天に向けておく。
右足の足裏、左足の足裏、右足の脛、左足の脛、胸の中心部、右の掌、左の掌、右腕、左腕、右肩、左肩、右頬、左頬、こめかみ、頭のてっぺん、舌に、トウモロコシの花粉をマーキングしていく。すべて、下から上に向けて行う。最後に、彼の頭上の周囲を時計回りに、トウモロコシの花粉を振り掛ける。
これが、ナバホ式のプロテクションの祈りだ。
彼がこの人生で、ビジョンをしっかりまっとうすることができるように。奥さんとのパートナーシップが、これからも実りあるものになるように。彼自身のスピリット、ガイドスピリット、グレートスピリット、クリエイターが、いつも彼と共にいて、彼を導き、守り、教えてくれるように。 と私は祈りをかけた。
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それから私達は、兄と妹として、これからも助け合っていく事を互いに約束し、固いハグを交わした。
長い一日だった。私がやっと寝袋に入ったのは、午前4時を回っていた。
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15.パイプセレモニー ラコタツアー
スウェットが終わって外に出ると、全身汗だくでびしょ濡れの服に外気が当たり、一気に体温が下がった。まだ雨が降っていたので、歯がカチカチと鳴るほどの寒さだった。
あまりの寒さだったので、パイプセレモニーは服を着替えた後、家の中で行った。
パイプは 「白いバッファローの女」 からラコタに伝えられたもので、聖なる祈りの道具である。
パイプは、男性メディスンマンと女性メディスンマンの両方が統合された形をしている。パイプの柄の部分は、男性の性器を、パイプの下部の丸くなった部分(タバコを詰める部分)は女性の性器を、それぞれ象徴している。
タバコの煙は、私達の祈りをグレート・スピリットに届けてくれるもの。なので、ほとんどのネイティブ・アメリカンにとって、タバコは単なる嗜好品などではなく、神聖な祈りの道具なのだ。 この時のタバコには、アカヤナギ (オオバヤナギ) の中皮を使った。外側の赤い皮を剥いだ後、皮を削って乾燥させたもの。
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14.スウェット・ロッジ ラコタツアー
ラコタ兄の家に戻ると、みんなが暖かく出迎えてくれた。みんなは私達を待っている間に、チラシ寿司を作り、スウェット・ロッジ用の火の準備をしてくれていた。
落馬した女性の体調を考慮すれば、落馬した当日にスウェットに入るというのはかなり無謀なことに思えた。しかし、ラコタ兄は無理してでも参加してもらいたいと主張し、お客さん自身も参加したいと希望したので、全員そろってスウェット・ロッジ・セレモニーをすることになった。
いよいよ、スウェット・ロッジ・セレモニーが始まる。ラコタ兄が始まりの祈りをラコタ語で捧げると、雨が降ってきた。遠くの方では、稲妻が光っている。雨は女性のパワー、稲妻は男性のパワーだ。「スピリット達が、このスウェット・ロッジを祝福してくれている」 とラコタ兄が嬉しそうに言った。
「今ここに、若いワシのスピリットと青い光のスピリットが来てくれている」 若いワシのスピリットは日中の光、青い光のスピリットは夜の光を象徴しているらしい。
今回のファイヤーマンには、若い男の子 が任命された。ファイヤーマンというのは、火の番人であり、”おじいさん”である聖なる岩をスウェット・ロッジの中に運び込んでくれる人だ。私も何度かやったことがあるが、想像していたよりずっと大変な役割なのだ。T はこの大役を任命されたことを、誇りに感じているようだ。
入る順番を決めて欲しい、とボスがラコタ兄に言った。ラコタ兄が指定した順番はこんな感じだった。
まず最初にラコタ兄。南側に女性軍。最初に 若い女の子、私、ラコタ兄の奥さん、落馬した女性、高齢者の女性二人組。それから男性軍。男性軍で一番年上男性、若い男の子、ボス、最後に ファイヤーマンの若い男の子。
“あれ?” と思った。“私が通訳なんだから、当然私がラコタ兄の隣でしょ? それに 落馬した女性は体調が悪いのだから、なるべく入り口に近い所に入れてあげるべきでしょ?”
瞬間的に、ラコタ兄の奥さんも同じことを感じたようだった。彼女は有無を言わさぬ口調で、ラコタ兄にぴしゃりとこう言った。
「ダメダメ。落馬したお客さんは体調が悪いし、スウェット・ロッジは今回全く初めてなんだから、私と通訳の間に座ってもらうわよ。そうすれば、私達2人で彼女のことを守ってあげられるからね」
ラコタ兄の奥さんは、落馬した女性客のことを気遣ってあげていた。
「熱くてしんどくなったら、頭を壁側の地面に向けると良いですよ。私は前の方に座って、壁側を空けておきますから…。辛くなったらすぐ、私か通訳に言ってくださいね」
やっぱりこの人はラコタ女性だ。さりげなくだが、確実にラコタ兄をサポートしてくれている。彼女がいてくれて良かった。
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スウェットが始まった。基本的に、スウェットの方法はそれを執り行う進行役によって異なる。下記に掲載するのは、ラコタ兄が進行役を務める、ラコタ式スウェットの方法である。
ラコタでは常に、4方向と宇宙と大地が自分につながっていると考える。その中心に自分というものが存在する。つまり、祈りを捧げるときは常に、7つの方向を祝福する言葉から始める。ラコタでの4方向は、西から始まる。西、北、東、南、という順番だ。
スウェットは第4ラウンドまである。
第一ラウンドは、自分達自身についての祈り。自分自身のこと、自分の持っている才能や特質、健康状態を認識する。すべて満たされていると感じるなら、そのことについての感謝を述べる。何か困っていることがあるなら、スピリット達にサポートをしてもらえるように祈る。
第二ラウンドは、両親や兄弟など近い血縁者のために祈る。自分という人間をサポートし、理解し、作り上げてくれたのは、家族なのだ。そのことに感謝の祈りを捧げる。もし家族の誰かが苦しんでいるなら、彼らがその苦しみから学びを得て、成長できるようにと祈る。
第三ラウンドは、ヒーリングのラウンド。ヒーリングが必要な人に対しての祈り。自分自身のことでも良いし、家族、友人のためでも良い。
第四ラウンドは、不要なものを手放すラウンド。私達はみんな、ネガティブな思考を持つ時がある。それらは次のステップへ進むため、成長するために必要なものだ。しかし、そこから学びを得て成長できた後には、ネガティブな思考をいつまでも持っている必要はない。だから、感謝の言葉とともに、それらを宇宙に手放してやらなければならない。
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第二ラウンドの途中で、ラコタ兄が私の肩をしきりに叩いている。ヒソヒソ声で私にこう言った。
「君に伝えなければならないことがある」
彼はこんなことを言った。
「青い光が見えるか? 君の目の前でチラチラと光を放っている」
目を凝らして、ラコタ兄の言う “青い光” とやらを見ようと頑張ったが、私には見えなかった。でもラコタ兄がそう言った時、既に私は自分の周りにスピリットの存在がいることを感じていた。
ラコタ兄はこう続けた。
「青い光は君のスピリットだ。君にメッセージを伝えて欲しいと言ってる。」
「スピリットが君に、“今取り組んでいる仕事、イエスカの仕事をしっかり続けなさい” と言っている。イエスカ (iyeska) というのは、ラコタ語で通訳者という意味だ」
それを聞いた途端、私は声を上げて泣き出した。
スピリットからのメッセージは続いた。
「イエスカの仕事は、とても重要な仕事だ。私達は君の助けを必要としている。大変な仕事ではあるが、君の歩いている道をこれからも歩み続けていきなさい。私達はいつも君のそばにいて、君を助けている。私達が君をイエスカに選んだ。君は選ばれし者なんだ」
「スピリット達が君のことを心配している。君がこの仕事をあきらめてしまうのではないかと…。自信を失ってしまっているのではないかと…。」
“You’re the chosen one.” の部分が、頭の中でエコーのように響いた。
本当のことを言うと、その時の私はすっかり自信を失っていた。
自分は全く役に立っていないのではないか? スウェットが終わったらボスに話そう。7月のツアーの通訳はお断りしよう。きっと次回は、他の人に通訳をやってもらった方が良いに決まってる…。
そういうようなことを、ぼんやりと考えていたのだった。だからこのメッセージは、本当に良いタイミングで聞くことができた。
