「破水」, parenting

日中は、スーパーマーケットで買出し。食材を大量に買い込み、冷蔵庫と冷凍庫と戸棚はほぼ満杯状態になった。

もうそろそろ出てきそうな気がする。夕食のときに夫も「今晩か明日、破水か5分間隔の陣痛があるような気がする」と言っていた。

そして・・・。

夜10時過ぎ、お風呂から出てベッドに横になった途端、お腹の左横から、「パンッ」と何かがはじけるような音がした。

ん?? もしかしてこれが破水ってやつかな?

トイレに行って確認したが、まだ水は出てきていない。

「破水じゃないなら、さっきの音はなんだったんだろう?」と思いながらトイレからリビングまで歩いたときに、ぬるいお湯のような液体が洩れていることに気付いた。おしっこではないことは確実に分かっていた。思っているよりも量が多い。やっぱりこれが破水なんだ。

リビングから大声で夫を呼んだ。

夫は完全に眠っていたようで、何度か呼んだ後でようやく起きてリビングに出てきた。

夫はまだ半分眠っている状態だったのだが、トイレからリビングまでの私が通った跡が水浸しになっているのを見て、ようやく完全に目を覚ました。

夫は大急ぎでバスタオルを2枚持ってきてくれた。一枚は私に手渡してくれて、もう一枚で床を拭いてくれた。

それから、「病院に電話する前に、何か食べておくか?」と私に聞いてくれた。私の担当の産科医は、病院に入ってしまったら、出産が終わるまで一切何も食べさせないと言っていたからだ。

何かを食べようとするのだが、「いよいよ出産なんだ」と思うと、体が震えてしまって食べ物がうまく咽を通らない。結局、シリアルをほんの少しだけ口に入れただけだった。

それから、病院に持って行くつもりで予め用意しておいたキャリーバックを車に積んで、夫と一緒に車で病院に向かった。

病院に着いたのは夜の11時前。

受付で「破水しました」と報告すると、産科病棟から2人の看護婦さんが車椅子を押して受付まで迎えに来てくれた。車椅子にはビニールシートが掛けてあって、ほっとした。この時点で、両足に挟んでいたバスタオルはビショビショになってしまっていたからだ。

産科病棟に入ると、日中はノンストレステストのために使っている大部屋に通された。内診をすると、子宮口は4センチ開いていた。

私の羊水の色は薄いピンク色だった。看護婦さんいわく、羊水の色は、薄いピンク、薄い黄色であることが多く、たまに、完全に透明の人もいるのだそうだ。羊水はぬるま湯のようなほんのり暖かい温度で、甘くて優しい匂いがした。

看護婦さんが私の羊水のサンプルを摘出し、何やら検査をした後、私と夫は個室病室に案内された。この病室ですべての作業が行なわれる。陣痛を経て子宮口が10センチになるまで待機し、出産し、出産後の養生をする。

このとき、陣痛はまだ10分間隔で、痛みはまだまだ耐えられる程度のものだった。

一時間おきに看護婦さんが病室に来て、私の血圧を測り、陣痛の痛みレベルが10段階のうちどのレベルかを聞いた。このときの痛さレベルは、6か7程度。

夫は同じ病室内に備えてあるソファーベッドで仮眠を取った。陣痛の痛みが段々と大きくなるに連れて、不安も押し寄せてくるのだが、夫がそばに居てくれるのだからと思うとほっとした。夫は時々目を覚ましては、私のベッドのところまで来て、私の額にキスしたり、頭を優しくなでてくれたりした。

22.お見送りラコタツアー 

2006年5月23日。ツアー最終日。

4時半に起床してシャワーを浴び、バタバタと支度をしてラピッドシティ空港へ向かう。

全員分のチェックインを済ますことが、私の最後の大仕事になった。私達がチェックインカウンターに到着したときには既に時間ギリギリだったので、空港係員から 「もう時間がありません。急いでください!」 と急かされながらの作業だった。

現在ノースウェスト航空では、預かり荷物の制限重量は 50ポンド ( 23 キロ) までとなっている。私と、もう一人の女性客の荷物は重量オーバーになり、25ドルを支払うようにと言われた。その時既に、空港係員からは 「荷物受付終了まであと1分です」 と急かされていた。私の荷物の重量は 57ポンド、つまりたった3キロ程のオーバーだった。

こういう場合は、泣きつくに限る。私は瞬時にモードを切り替え、精一杯のかわいらしい笑顔とおどおどした表情を作って、係員に頼み込んだ。

「規則だってことは十分分かっているんですけどぉ、今回だけ見逃してもらえませんか? そうしていただけると、とっても助かるんですぅ…」

私の経験上、大抵はこの作戦が有効なのだが、今回の係員には通用しなかった。彼は、ぴしゃりとこう言い捨てた。

「私どもの航空会社では、一切例外を許可しておりません!」

チッ! ダメだったか? 仕方なくそのまま25ドルを支払い、ゲートまでダッシュで駆け込んだ。たかが25ドル、されど25ドルだ。貧乏な私にとっては、切実なのである。

ちなみに余談だが、後日、別の空港係員に確認したところ、預けられる荷物は 23 キロが2つまで、つまり合計で 46 キロまで大丈夫だったのだ。私はスーツケースの中にボストンバッグを持っていたので、それを使って荷物を2つに分ければ良かっただけの話である。

それに、私が後日乗ったフライトでもすべて、私の預け荷物は60ポンドを超えており、制限重量を4キロほどオーバーしていたのだが、どこのカウンターでも 「これくらいなら良いよ」 と言ってくれた。結局の所、係員の気分次第なのだ。

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話をツアーに戻そう。

ツアーメンバーは、このまま3本飛行機を乗り継いで、関空まで戻ることになっていた。最終の便、デトロイトから関空までの席が、若い男の子 K 以外、誰も取れておらず、座席欄に “At Gate” と表示されていた。それがとても気になっていたのだが、ボスがいるから大丈夫だろうとも思っていた。

一本目のフライトは全員同じで、ミネアポリス空港まで。ここから、落馬した女性客は個人旅行の予定があったので、先にみんなと別れることになった。

別れ際に、彼女は私にこう言ってくれた。

「いろいろ助けてくれてありがとう。特に病院で付き添ってくれていた時には、本当に心強かった。ありがとうね」

涙がこぼれそうになった。彼女は私のふがいなさを怒り、全く信頼してくれていないと感じていたからだ。だからこの一言で、本当に心が癒された。

それでも、これからまだ7人のメンバーをお見送りしなければならない。最後は笑顔で見送りたいと思っていたので、私は涙を必死でこらえていた。何か言葉を発すると、涙がこぼれそうだったので、彼女に何も言えなかった。なので、今この場で、きちんとお礼を述べておきたい。

あの時のあの言葉、とても嬉しかったです。私の方こそ、あなたには、いろんな箇所でさりげなく、助けていただきました。良い学びも、たくさんもらいました。本当に、ありがとうございました。

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それから、他のメンバーを見送る番になった。

1人ひとり、丁寧に言葉をかけてお別れをした。涙腺が弱くて嫌になってしまう。でもこの瞬間はもう二度と帰って来ない。そう思うと、すべての出会い、すべての瞬間が愛おしくてたまらない。

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ボスは、いつもと変わらぬ笑顔で私にハグをくれた。

「ナバホの家族によろしく。7月のツアーもよろしく頼む」

そうなんだ。私はまた一ヶ月半後、新しいツアーメンバーと共にこの大地に戻ってくる。今回得た学びを生かし、次回に備えよう。

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最後に、ツアーのみなさんへ。

今回は本当にありがとうございました。このツアーの通訳をさせていただいたこと、貴重な体験を共有させていただいたことに、本当に感謝しています。

私にとってみなさんは、一つの大きな家族のようでした。みなさんの助けがあったからこそ、このツアーを無事に終えることができました。

また近いうち、日本で皆さんにお会いできる日を楽しみにしています。

21.お別れ会 ラコタツアー

私の体調も戻ったので、全員揃ってラコタ兄とのお別れ会をすることになった。

ツアーメンバーが一人づつ、ラコタ兄に今回のツアーの感想やお礼を述べていく。

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最初に切り出したのは 若い男の子。

自分はずっとビジョンを探し続けてきた。このツアーに来る少し前に、付き合っていた彼女が自分の元を離れて行った。原因は、自分がまともな職に就いていなかったから。そのことでとても傷ついた。何が正しい事なのか、自分はこれからどうしたいのかをずっと考えていた。このツアーに参加したのは、もしかしたらその答えが得られるかもしれないと思ったから…

それについて、ラコタ兄はこんなコメントをした。

「私自身もパートナーシップを組むために、長い道のりを歩いてきた。今のパートナー(ラコタ姉)に出会い、落ち着くまでに、2回結婚したが、うまくいかなかった。前の結婚に関しては、彼女の方はパートナーシップを組む準備が出来ていたのだが、私はまだ準備が出来ていなかった。だからうまくいかなかった。ビジョンを見付けることも、パートナーシップを組むことも、人それぞれタイミングが異なる。

だからまず君は、自分の内面を見つめる所から始めなければならない。自分の中の男性性と女性性を認識し、うまくバランスを取り、調和させること。つまり、自分の内面での結婚をさせることが先。そうしなければ、別のスピリット、つまり他の人とのパートナーシップなど築けない。

ビジョンも同じことが言える。初めから遠くを見ていても、何も見えない。どこを見れば良いのかというポイントが分からないからだ。まずは一番近い所、つまり自分を見つめる所から始める。自分というものを思い出す。自己を確立する。そこから始めて、段階を経て旅を続けていってください」

ここでボスが一言、T にこう言った。

「つまり、今の君に必要なのはグラウンディングだ」

グラウンディングというのは、一言で言うと、地に足を付けること。木を想像してもらいたい。しっかりと大地に根を張っている木は、どんな大雨に会おうが、どんな大風が吹こうがびくともしない。人間も同じ。成長していくためには、まず核となる部分を根付かせなければならないのだ。

グラウンディングは、エネルギーの循環のためにも必要である。エネルギーを宇宙からもらい、不要なものは大地に戻していく。地に足が付いていない人は、このエネルギーの循環ができない。つまり、エネルギーが中に留まってしまうのだ。そうなると、新しいエネルギーの入る余地が無くなる。新しいものを手に入れるためには、古いものを手放さなければならない。

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次に話し始めたのは、もう一人の若い男の子。

僕は人と打ち解けるのが上手い方ではない。家族とも上手くコミュニケーションが取れていなかった。でもこのツアーメンバーとはすぐに打ち解ける事ができた。みんな、ごく自然な形で、僕のことを輪の中に入れてくれた。それに、現地の子供達とも自然に打ち解けられた。そういうことが、とても嬉しかった。帰国したら、家族ともこの体験を分かち合いたいと思う…。

ラコタ兄のコメント。

「あなた達はみんな、この大地に呼ばれたから、このツアーに参加することになったのです。何故なら、この世で起こる事にはすべて意味があるからです。帰国したら、この大地で体験したこと、感じたことを、あなた達の家族や友人達と分かち合ってください。そしてまた是非、この大地に戻ってきてください。来るたびに、前回とは異なった体験をすることができると、私は確信しています」

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60代女性の話。

私の夫は、子供達がまだ幼い頃に他界した。小さな子供3人を抱えて、私は必死で生きてきた。今は、子供達も立派に成人して、孫も3人いる。これからは、自分のために時間とお金を使っても良いのではないかと思った。このツアーに参加しようと思ったのは、そういう理由から…。

このツアーでは、みんなから本当に大切にしてもらい、気遣ってもらった。だからとても楽しく過ごせた。このツアーで出会えた皆さんに、本当に感謝しています。

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落馬した女性客の話。

落馬事故の件では、皆さんにご心配をお掛けしてしまいました。皆さんの優しい気遣いや、思いやりに触れることができ、本当に感謝しています。スウェットロッジでの祈りも、本当にありがとうございました。

ラコタ兄のコメント。

「落馬は誰のせいでもなく、意味があって起こったことです。その意味を、いつかあなたが、あなた自身の方法で見付け、そこから学べることを祈っています」

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60代女性のの話。

私達の年代の人達は誰でも、戦後の貧しい子供時代を送ってきました。そんな中、私達は 「もったいない」 という精神を確立してきました。どんなものでも、使えそうなものは工夫して再利用する、最後までとことん使う、粗末にしない。そういう風にして生きてきました。このツアーで保留地での生活を体験して、その 「もったいない」 という精神を思い出すことができました。

このツアー参加は、家族、特に夫の暖かい理解があったからこそ実現できました。帰国したら、この旅で体験したことを家族と共に分かち合うつもりです。

彼女はは話している最中に、少し涙を流した。

ラコタ兄のコメント。

「ものを大切にするということは、とても良いことです。

保留地の若者達はみな、便利な生活を求めて外に出て行きます。そうして、保留地から、段々と人が減っているというのが現状です。でも私は、こう思っています。私達がまず自分の故郷に戻り、自分の周囲の世話をする所から始めることが大切だと…。 白人の作り上げた外部の世界は、確かに便利な暮らしを保証してくれます。でもそれらは、いつまでも続くわけではない。何故なら、自然から奪うばかりの生活では、やがてその資源を使い果たしてしまうからです。

私達は保留地の中で、自然と共存して生きています。自然から何かをもらったら、必ずお返しをしています。そんな風にして、自然に生かさせてもらっている訳です。今回あなた方が保留地での体験から感じたこと、得たことを、どうか家族や友人達と分かち合ってください。

それから、あなたはとても良いご家族を持っていらっしゃるようですね。どうかこれからも、あなたのご家族を大切になさってください」

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若い女性客 の話。

このツアーに参加するのは、2度目。またこの大地に戻ってこられて嬉しかった。旅の中で、ラコタ兄やココから大切なメッセージを受け、それらがすべて現実なのだと実感した。今回学んだ事を、帰国してからじっくりともう一度考えてみたい。

ラコタ兄のコメント。

「また、是非戻ってきてください。

それから、私から君への個人的なメッセージ。“もっともっと、自分に自信を持って話しなさい”」

私もラコタ兄に続いて、「そうだよ。もっと自信持って、堂々としてなよ」 と付け加えると、ボスがニヤリと笑い、女の子 に向かってこう言った。

「コイツに “お前もな” って言い返してやってくれ!」

……。この人には敵わない。何でもお見通しだ。 そう、実のところ、私が彼女を励ましているときにはいつも、自分自身に対しても同じ言葉を言い聞かせるように話していたのだった。

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ラコタ兄からみんなへのコメント。

「この旅で、みなさんと共に知識や体験を分かち合えたこと、また共有できたことに感謝しています。貴重な時間を、ありがとうございました。またどうぞ、戻ってきて、私達とこの大地に会いに来てください。」

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それから私達のお別れ会は終了した。みなそれぞれが、ラコタ兄が固いハグをして見送った。

20.脱水症状 ラコタツアー 

翌日は、バッドランド国立公園へ観光に行った。目的地に着いた辺りから、私はバテテいた。景色が荘厳ですばらしかったのはおぼろげに覚えているが、実を言うとこの日の記憶はあまり残っていない。空気が乾燥していて、異様な熱気だったのだ。

その日は最後の夜だったので、豪勢にステーキを食べに行くことになっていた。レストランの予約は夜7時。私達一向は夕方5時ごろモーテルに到着し、シャワーを浴びてからレストランに出掛けることにした。

シャワーを浴びると、一気にバテた。レストランに出発するまでの間に、私はビールの買出し役を仰せつかっていたのだが、立っているのも大変なくらいフラフラしている。そこで、買出しは他のメンバーに頼み、出発までの一時間ほど、私は仮眠を取ることにした。

ベッドに入ったのが、5時半だったことは覚えている。6時20分にツアーメンバーが私を呼びに来てくれたのだが、この一時間の記憶が全く無い。どうやら完全にノックダウン状態だったようだ。

みんなとの最後の夕食になるのだし、行きたかった。けれど、車に乗り込んだ瞬間、やはりまだ眠気が残っていてフラフラしている。とても行けるような体調ではない。

そこで、夕食は断念して、私だけモーテルに残らせてもらった。みんなが戻ってきたのは、9時半頃。この3時間の記憶も全く残っていない。

先ほど迎えに来てくれた女の子が、また私の部屋まで呼びにきてくれた。 私はノロノロとベッドを這い出た。それから、メガネが無いことに気が付いた。ベッドサイドテーブルやら、ベッドの下やら、洗面所やらを必死で探し回ったのだが、見付からない。

あきらめて、ボスの部屋まで行き、「遅くなってすみません。メガネを探していたんですけど、見付からなくって…」 と詫びた。

ボスとラコタ兄は、変な表情で私を見ている。

何でだろう? メガネが無くなったことは、私にとっては大事件なんだけどな…

……しばしの沈黙……。

それからボスが、おもむろに私の胸ポケットを指差した。

……!!……。

私のメガネは、私の胸ポケットにしっかりと収まっていた!

ボスとラコタ兄はこらえ切れなくなり、吹き出した。

「教えるのを、もうちょっとじらしてやろうかとも思ったんだけど、かわいそうになってな」

それからボスは、真剣な表情で私に聞いた。

「お前、今日、どれくらいの水を飲んだ?」

はっとした。そう言えば、今日は朝から全然、水を飲んでいない。普段の私は、毎日水を2リッターは確実に飲んでいる。旅行中もそれは実行していた。その日、全く水を飲んでいなかったのは、たまたま手元に水が無かったからだ。昨日のベアビュートで水を飲みきってしまっていたので、今日の分は持っていなかったのだ。

ボスはこう言った。

「君は脱水症状を起こしているんだよ。水を買いに行こう」

そう言って私達は近くのスーパーまで水を買いに行った。

ボスは私にスポーツドリンクのゲータレードを買うように勧めた。そこで私は、ゲータレードと水を数本、購入した。お金を払い終わるとすぐに、ボスがゲータレードを飲むようにと言った。

あまり喉は乾いてないんだけどな… と思いながら、私はゲータレードの蓋を空けた。

それから僅か数秒で、私は1リッター入りのゲータレードを一気に飲み干し、さらに1リッター入りの水も半分くらい飲み干した。

ボスは私の方を見てニヤリと笑い、こう言った。

「な、脱水症状だ。普通の人はそんな量の水分を一気に飲めないぜ」

後から聞いた話によると、本当はこういう飲み方をしてはいけないらしい。これ程のひどい脱水症状を起こす前に、水を少量ずつ適度に体に入れておかなければならないのだ。

みなさん、あの日はご心配をお掛けしました。あの時の私の体調不良は、私の不注意による脱水症状から来たものでした。

19.演奏会 ラコタツアー

その日、私達にはお客さんがいた。ラコタ兄の友人で、ミュージシャンであるラコタ男性だ。

彼には日本人の友人がいて、その人とはもう 30 年以上の付き合いになるのだとか…。そのせいもあって、彼は普通の日本人よりも、日本の歴史や文化、料理に詳しい。

彼は毎年、ボスの主催するこのツアーの時、ラコタ兄の家を訪ねてくる。今回も例年のごとく、私達日本人と出会う事を楽しみにしていたそうだ。

長身で、スラリとしたルックス。長い黒髪を後ろで束ねていて、彫りの深い顔立ち。目は茶色。なかなかの男前だ。服装は、デニム地のシャツに同系色のジーンズを合わせている。…と、そこまでは至って普通である。ところが、彼の出で立ちの中で、一箇所だけ私の目を釘付けにした箇所があった。 足元だ。 何故か、靴はスニーカーではなく、黒の革靴だった。

話の折々で彼は、 “僕は美的センスに優れている。芸術や美しいものには目がない” と話していただけに、このセンスが不思議でたまらなかった。 彼は “僕はビジネス・センスにも長けていて、お金に困った事は無い” とも話していたので、 “保留地で黒の革靴”は彼が金持ちであることを強調する目的があるのかもしれない。 私はそんな風に無理やり自分を納得させた。

****************

それはさておき、話を元に戻そう。

彼が私達を訪ねてきたメインの理由は、彼がミュージシャンで、日本人と音楽のセッションをしたかったからだ。

今回のメンバーの中に、三線を持ってきていた男の子がいた。彼は三線で沖縄の歌を弾き語りしてくれて、ラコタ男性 はギターの弾き語りとフルートの演奏を聞かせてくれた。

そのときに男の子が歌ってくれた沖縄の歌が、私はとても気に入った。メロディがとてもきれいで、美しい青い空、青い海の映像が目の前に浮かんでくるような曲だった。

私はこの曲の歌詞をおぼろげにしか覚えていなかったので、歌詞は本人に直接教えてもらった。(ありがとう)

********************

それはまーちゃんという人の曲で、曲のタイトルは 「宝物」。 沖縄の方言で ”ぱいぬかじぴとぅ” と読むらしい。

人はなぜこの星の悲しみがわからないの?

青い空、青い海ーーそれはみんなの宝物

花の咲くこの星に生まれて良かった

鳥の鳴くこの星に生まれて良かった

私のかえらない命、島とともにありますように

いつまでもこの星とともにありますように

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ラコタ男性 もこの曲をとても気に入っているようだった。

「いつか、この曲を作った人と会い、この曲の歌詞をラコタ語に変えて歌ってみたい」 と言っていた。

その夜私達は、遅くまでこの小さな演奏会の観客となった。

お二人とも、きれいな曲を私達に共有してくれて、どうもありがとう。

18.あるツアーメンバーとの対話 ラコタツアー 

ベアビュートからの帰り道、私達はみんな非常に空腹だった。ラコタ兄の家まで戻って、料理をするまで、とてもじゃないけど待てるはずがない。そこで、途中のピザ屋で夕食をとることにした。

本来なら、ピザとくればビールも一緒に注文したいところだが、誰もビールを注文したりはしなかった。ラコタ兄のことを気遣っての、暗黙の了解だ。というのも、ラコタ兄には過去に、アルコール中毒で自暴自棄になっていた頃がある。やっとの思いで酒を絶ち、何年もそれを維持しているという話を、本人から聞いた。彼にとっては非常に辛い過去だ。常日頃、お世話になっているラコタ兄に、またそれを思い出させるつもりなど誰にもなかったのだ。

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ピザ屋を出た頃にはすっかり日は落ちていて、辺りは真っ暗になっていた。帰り道の車は、私が運転をし、若い女の子のツアー参加者が助手席に座った。後部座席には若い男の子が座っていたのだが、やがて彼は疲れ果てて眠り込んだ。

もうそろそろ、ツアーも終盤に差し掛かる。辺りは真っ暗だったし、共にいろんな体験を共有した仲間ということもあってか、彼女は私に心を開き、ポツリポツリと自分自身のことについて語り始めた。

彼女は27歳で、プロのカメラマン。華奢な体で、声も小さいので、一見とてもおとなしそうに見える。

でも彼女の内側には、とても強いパワーが備わっている。そのことは、私もボスも、そしてラコタ兄もちゃんと気付いていた。

彼女は今、迷いの道を歩んでいる最中のようだ。

まだ自分のビジョンが見付からない。 家族のこと、恋人のこと、仕事のことなどで、自分がどう進んでいけば良いのか、何を目標にしていけば良いのかが分からない。自分には、相手の気持ちを深読みしすぎるところがある。結局の所、自分を守ろうとしすぎているのかもしれない。自分のやる事なす事すべてに自信が持てなくて、前に進むのが怖くてたまらない。

そんなようなことを彼女は話していた。私はラコタ兄から彼女に伝えておいて欲しいと言われた事を話した。それから、私は彼女にこんなようなことを話した。

今のあなたに必要なのはまず、自分を知り、認めてあげること。自分を好きになってあげること。他の人には無い、あなただけに与えられたギフトに気付くこと。

あなたには特別なギフトが備わっている。そのことに気付いてあげなければいけない。スウェットの中であなたが見たと言っていたスピリット達の姿は、紛れもなくホンモノなんだよ。スウェットの中で感じたこと、体験したことはすべてホンモノなんだよ。他の誰にでも感じたり、体験できたりするものじゃない。あなたを守っているスピリット達がそうさせてくれてるんだよ。

あなたは決して一人きりじゃない。あなたの周囲には、いつもあなたの事を応援し、励まし、導いてくれているスピリット達が存在するからね。あなたが自分を知り、認めてあげて、そしてあなたのことを守ってくれているスピリット達の存在に気付き、感謝するようになると、スピリット達はあなたのことを今までよりももっと守りやすくなる。

自分に自信が無い、自分を好きじゃないってことは、守ってくれているスピリット達に対して失礼だよ。自信持って良いんだよ。先に進んだって良いんだよ。たとえそれが、結果的に思い通りの方向に進まなかったとしても、それは次のステップに進むために必要不可欠な学びだったんだから…。この世で起こる事はすべて必然。無駄な事なんて一つも無いんだよ。

これらのことは、彼女のスピリットが私の口を通して「言わせ」たものだ。私はこの時、彼女を助けるために、純粋な道具になっただけなのだ。

実はね、私もあなたの年齢の時に、同じ体験をしたんだよ。当時付き合っていた男の子から、全く同じ事を言われたことがあるの。その時の彼も、今の私と同じことを言ってた。“君のスピリットが僕の口を借りているだけ。これは君のスピリット、つまり君自身の言葉でもあるんだ” ってね。

私もあなたの年齢の頃には、確固たるビジョンを持っていなかった。探し始めたばかりだった。それから徐々に、色んな方法で、ビジョンを確信していった。

私の場合、次のステップに進むために大きく貢献してくれたのは、当時付き合っていた男の子だった。彼と別れた後、私は一人で旅を続けた。そうして、ナバホのメディスンマンとかヒーラーの友人達の口を通して、また自分自身の白昼夢 (いわゆる視覚的なビジョン) や夢を通して、自分のビジョンを得てきた。

ビジョンを得てからも、まだまだ進むべき道のりは長い。全く形になっていないかもしれないって感じることもある。でも、通ってきた道を振り返ると、随分進歩してきたとも感じる。

迷いの道は、誰でも通る道。それなら、それを楽しんじゃうっていうのも手だよね。

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あのとき時間を共有した私の友人へ

あなたと話していて、いろんなことを思い出すきっかけをもらいました。あなたの言った言葉が初々しくて、初心にかえらせてもらえたような気がします。

貴重な時間をどうもありがとう。この日、あなたと共に過ごせたこと、話せたことに感謝しています。

17.ベアビュート ラコタツアー 

スウェットを終えた翌日は、ベアビュートに登る予定だった。ここはラコタ語では、 Mato Paha (Bear Mountain ) と呼ばれている。ラコタ以外の人も、ビジョンクエストやセレモニーを行っている聖地だ。この聖地の中では、写真を撮ったり大声で話したりする事は出来ない。

ラコタ兄の家を出発したときには快晴だった天気が、ベアビュートに近付くにつれ、段々と雨雲と雷が寄ってきた。

ここは、ボスがビジョンクエストを行った場所だからだろう。ボスには男性雨と雷を呼ぶパワーがある。

ビジョンクエストというのは、白いバッファローの女がラコタに伝えた教えの中の一つ。

ビジョンの探求者は自分だけの場所を見付け、3メートル程の円を描く。そのサークルの中には、水以外のものは一切持ち込めない。人によっては自分の排出する尿も水のボトルに取っておいて、それを飲用することがある。

探求者は2日ないし4日間、このサークルの中で過ごす。食料は一切取らない。探求中には、このサークルから出るように仕向けることが、いろいろと起こる。孤独や恐れ、不安という内面的な障害、動物やヘビなどの出現という物理的な障害などだ。探求中はこのサークルの外に出てはいけない。様々な誘惑を振り切らなければ、ビジョンは得られないのだ。

この探求の中で探求者は、自分が何者なのかを認識し、今生でやり遂げなければならない使命を思い出す。そして、自己の成長、スピリチュアルな導きを ワカンタンカに祈り続ける。

この探求は自己の内面へと旅するもので、非常に過酷なものだ。 ビジョンクエストは crying for a vision とも言われている。

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ベアビュートを登り始めると、所々に色とりどりのタバコタイが木の枝に括りつけられているのが見える。 (タバコタイというのは、5センチ角くらいの小さな布にタバコの葉を詰めたもの。結ぶ時にはその人の祈りやコミットメントを盛り込む)  あちらこちらから、いろんな種類のエネルギーが交錯しているのが感じられる。

途中まで登った辺りで、雨雲と雷がすぐそこまで来ているのが見えた。私達はツアーのお客さん達の体調を気遣い、頂上まで登るのを断念した。

その代わり、頂上手前の所で、一人になる時間を取ることにした。“みなさん、各自好きな場所に行って、祈りの時間を持つことにしましょう”、とボスが言った。

私は下の方まで降りていった。大きな岩が2つある場所を見付けて、その真ん中で祈りを捧げた。コーンポラン (トウモロコシの花粉) をオファリングして、 “この大地の人々(ラコタの人々)と、私達日本人、それにナバホの人々を含め他のアメリカ先住民の人々が、互いに協力し合いながら、この美しい大地、環境を守っていけるように”、と祈った。その場所では、男性的な力に満ち溢れていた。

祈りを終えて集合場所に戻ってきた時、みんなの表情とエネルギーは先程とは明らかに違っていた。

麓まで下りる時には、優しい雨が降ってきた。スウェットの後、シャワーを浴びていない私達にとって、この優しい雨は浄化のシャワーのように感じた。

車に乗ってから、一番若い女性客 がこんなことを私に言った。

「帰り道の雨は、あなたが呼んだのね。行きの時の、激しい雨と雷はボスが呼んだものなんだよね」

きっとそうなんだろう。ボスのエネルギーはとても男性的で、私のエネルギーはとても女性的なものだ。そういう意味で、私達はうまくバランスが取れている。だから私は、ボスと一緒に仕事をしていると、安心できるのだと思う。

16 ラコタ兄との小さなセレモニー ラコタツアー

パイプセレモニーが終わると、皆はそれぞれ寝床に向かった。私とラコタ兄はダイニングテーブルに残った。”スウェットの中での出来事を詳しく話しておきたい”、とラコタ兄が言ったからだ。

ラコタ兄はまず、落馬した女性に関するメッセージを話し始めた。スウェットの中に、馬のスピリットが現れて、ラコタ兄にメッセージを伝えてきたらしい。

「今から君に伝えるメッセージを、彼女にしっかり伝えておいて欲しい」 とラコタ兄が言った。

「今日起こった出来事は、単なる偶然などではなく、ちゃんとした意味があった。彼女はバランスを崩していた。落馬は、彼女自身がそのことに気付き、バランスを取り戻すために必要だった。馬はそのきっかけを作ったに過ぎない。

彼女に痛い思いをさせてしまったことを、馬のスピリットが詫びていた。でも馬は、重大な怪我にはならないような形で、彼女を落馬させた。馬のスピリットが、大怪我にはならないように守ったのだということを、彼女に知っておいてもらいたい。

彼女自身が今回の落馬事故からのメッセージに気付くのは、今すぐという訳ではない。もっと先のことになる。しかし必ず、彼女はこのメッセージに気付く事ができる。」

ネイティブ・アメリカンの言う ”バランス” というのは、Body, Mind, Sprit (肉体、精神、スピリット)のバランスの事を指す。彼女のどの部分がどんな風にバランスを崩していたのかは、ラコタ兄にも私にも分からない。それは、落馬した女性自身が、帰国後、元の生活に戻って落ち着いた頃に何かをきっかけにして気付くようになる、というのだ。ラコタ兄はこう続けた。

「馬のスピリットが、彼女にまた是非この大地に戻ってきてもらいたいと言っていた。また、この大地で馬に乗る機会が出てくる。その時彼女は、別の馬と出会うことになる。その馬は彼女のことをしっかり守ると約束してくれた。彼女は、その馬を必ず見付け出す事ができる。だから、彼女には必ず戻ってきてもらいたい」

彼女が聞いたら、喜ぶだろうな。彼女も馬が大好きなのだ。今回のことで、馬の事を怖いと思うようになったかもしれない。でも、次回彼女がまたこの大地に戻ってきたら、彼女の守り手となってくれる馬と出会う勇気を持って欲しいと思う。

***************

参加者の中で一番若い女の子の話題になった。ラコタ兄は 彼女のことを心配していた。彼女には、私のスピリットの姿が見えていた。それに、ボスのスピリット、白い力強いエネルギー体の存在も見えていたらしい。しかし 彼女は、とても奥ゆかしい性格なので、そのことを確信できないでいた。彼女に、“もっと自分に自信を持て” “君がスウェットの中で見たものは、ホンモノなんだよ” ということを伝えておいて欲しいと言われた。

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最後に、ラコタ兄は、私に対するメッセージの続きを伝えた。

私はスウェットの中でパートナーのことを話していた。去年私は、あるナバホ男性に出会った。彼はまだ正式に彼氏ではないが、この人がパートナーなのではないかと私は感じていた。ラコタ兄はこう言った。

「その人は君のパートナーではない。君はまだパートナーに出会っていない。君のパートナーは偉大な人物で、いろんなところを旅している。君は、焦る必要などないのだよ。もう少し、待っていなさい。悲しがる事はない。君は確実にそのパートナーと出会う事になっているのだから…。パートナーに出会ったら、君のスピリットは瞬時に彼のことを思い出す。君達はスピリットワールドでも、過去生においても、ずっと一緒に過ごしていたのだからね」

“パートナーに必ず出会える” という部分は納得できたが、“まだ出会っていない” という部分は腑に落ちなかった。私はこのツアーの後、そのナバホ男性と会う約束をしていた。週末には彼と “ラブラブキャンプ” に行く約束もしていた。(ラブラブキャンプというのは、私が勝手に呼んでいただけだ。そのキャンプのときに、彼のお気に入りの場所、彼だけの場所に連れて行ってくれることになっていた)

私が不満足な表情をしていることに気付き、ラコタ兄はクスッと笑った。

「どうであれ、君は気付くよ。そのキャンプは実現しない、とスピリットが言ってる。“君のお父さんの言う事を聞きなさい” とスピリットが言ってる。何の事か、分かるか?」

……。スピリットが何を意味しているのか、分かった。実はその “ラブラブキャンプ” と全く同じ週末に、ナバホ父が Beauty Way Ceremony を開く事になっていたのだ。どちらを優先すれば良いのか、と私は考えていたところだった。

……となると、今回の “ラブラブキャンプ” は何らかの形でキャンセルになり、私はナバホ父のセレモニーに参加する、ということか?……

これは私が心の中での問いかけだったのだが、ラコタ兄はニヤリと笑い、こう言った。

「その通り!」

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ラコタ兄は 「ちょっと、待っていなさい」 と私に声を掛け、ベッドルームから何かを持ってきた。セージとイーグルフェザーで作られた扇だった。それから、コップにきれいな水を注ぎ、私の目の前に置いた。

「君に祈りを掛けておきたい。このツアーで、最後までしっかり通訳という任務をこなせるように。このツアーの後、無事にナバホの大地に戻れるように。パートナーの事も含め、これからの君の人生、君がまっとうしなければいけない任務を、スピリット達が導き、守ってくれるように」

ラコタ兄はセージを両手の掌の中でくるくると丸め、小さなお団子を作った。それに火を点けて、スマッジングをした。セージの煙をイーグルフェザーの扇で私に扇ぎかけながら、ラコタ語で祈りを捧げてくれた。時折、コップの水にもセージの煙を扇ぎかけている

とても厳かな時間だった。私は、心を真っ白にして、ラコタ兄の祈りの言葉とセージの香りに、身を任せていた。

「君の場合…」 と、ラコタ兄が静かに言った。

「迷ったときには、こうやってセージでスマッジングして、きれいな水に祈りを込めると良いようだ。心を真っ白にして、祈りの水を飲み干す。すると、迷っていたことへの答えが与えてもらえるよ」

これはラコタ兄の意見ではなく、私のスピリットが彼にそう伝えているのだという。

「君は過去に、シャーマンとして生きてきた。近いうち君は、そのことを思い出すだろう。そうやってまた、大地と人々を癒すという役割を担っていく事になる」

このことは、ナバホのメディスンマンから何度も言われている。本当にいつか、そうなるのだろう。

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ラコタ兄の祈りのお礼に、私もナバホ式のお祈りをラコタ兄に掛けてあげることにした。

部屋から、タデディンバッグ(トウモロコシの花粉が入った、鹿革製の小袋)を取ってきた。

まず、ラコタ兄に、両手両足を伸ばして座ってもらう。両手は前に伸ばして膝の上に置いてもらう。この時、掌は天に向けておく。

右足の足裏、左足の足裏、右足の脛、左足の脛、胸の中心部、右の掌、左の掌、右腕、左腕、右肩、左肩、右頬、左頬、こめかみ、頭のてっぺん、舌に、トウモロコシの花粉をマーキングしていく。すべて、下から上に向けて行う。最後に、彼の頭上の周囲を時計回りに、トウモロコシの花粉を振り掛ける。

これが、ナバホ式のプロテクションの祈りだ。

彼がこの人生で、ビジョンをしっかりまっとうすることができるように。奥さんとのパートナーシップが、これからも実りあるものになるように。彼自身のスピリット、ガイドスピリット、グレートスピリット、クリエイターが、いつも彼と共にいて、彼を導き、守り、教えてくれるように。 と私は祈りをかけた。

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それから私達は、兄と妹として、これからも助け合っていく事を互いに約束し、固いハグを交わした。

長い一日だった。私がやっと寝袋に入ったのは、午前4時を回っていた。

15.パイプセレモニー ラコタツアー 

スウェットが終わって外に出ると、全身汗だくでびしょ濡れの服に外気が当たり、一気に体温が下がった。まだ雨が降っていたので、歯がカチカチと鳴るほどの寒さだった。

あまりの寒さだったので、パイプセレモニーは服を着替えた後、家の中で行った。

パイプは 「白いバッファローの女」 からラコタに伝えられたもので、聖なる祈りの道具である。

パイプは、男性メディスンマンと女性メディスンマンの両方が統合された形をしている。パイプの柄の部分は、男性の性器を、パイプの下部の丸くなった部分(タバコを詰める部分)は女性の性器を、それぞれ象徴している。

タバコの煙は、私達の祈りをグレート・スピリットに届けてくれるもの。なので、ほとんどのネイティブ・アメリカンにとって、タバコは単なる嗜好品などではなく、神聖な祈りの道具なのだ。 この時のタバコには、アカヤナギ (オオバヤナギ) の中皮を使った。外側の赤い皮を剥いだ後、皮を削って乾燥させたもの。

14.スウェット・ロッジ ラコタツアー 

ラコタ兄の家に戻ると、みんなが暖かく出迎えてくれた。みんなは私達を待っている間に、チラシ寿司を作り、スウェット・ロッジ用の火の準備をしてくれていた。

落馬した女性の体調を考慮すれば、落馬した当日にスウェットに入るというのはかなり無謀なことに思えた。しかし、ラコタ兄は無理してでも参加してもらいたいと主張し、お客さん自身も参加したいと希望したので、全員そろってスウェット・ロッジ・セレモニーをすることになった。 

いよいよ、スウェット・ロッジ・セレモニーが始まる。ラコタ兄が始まりの祈りをラコタ語で捧げると、雨が降ってきた。遠くの方では、稲妻が光っている。雨は女性のパワー、稲妻は男性のパワーだ。「スピリット達が、このスウェット・ロッジを祝福してくれている」 とラコタ兄が嬉しそうに言った。

「今ここに、若いワシのスピリットと青い光のスピリットが来てくれている」 若いワシのスピリットは日中の光、青い光のスピリットは夜の光を象徴しているらしい。

今回のファイヤーマンには、若い男の子 が任命された。ファイヤーマンというのは、火の番人であり、”おじいさん”である聖なる岩をスウェット・ロッジの中に運び込んでくれる人だ。私も何度かやったことがあるが、想像していたよりずっと大変な役割なのだ。T はこの大役を任命されたことを、誇りに感じているようだ。

入る順番を決めて欲しい、とボスがラコタ兄に言った。ラコタ兄が指定した順番はこんな感じだった。

まず最初にラコタ兄。南側に女性軍。最初に 若い女の子、私、ラコタ兄の奥さん、落馬した女性、高齢者の女性二人組。それから男性軍。男性軍で一番年上男性、若い男の子、ボス、最後に ファイヤーマンの若い男の子。

“あれ?” と思った。“私が通訳なんだから、当然私がラコタ兄の隣でしょ? それに 落馬した女性は体調が悪いのだから、なるべく入り口に近い所に入れてあげるべきでしょ?”

瞬間的に、ラコタ兄の奥さんも同じことを感じたようだった。彼女は有無を言わさぬ口調で、ラコタ兄にぴしゃりとこう言った。

「ダメダメ。落馬したお客さんは体調が悪いし、スウェット・ロッジは今回全く初めてなんだから、私と通訳の間に座ってもらうわよ。そうすれば、私達2人で彼女のことを守ってあげられるからね」

ラコタ兄の奥さんは、落馬した女性客のことを気遣ってあげていた。

「熱くてしんどくなったら、頭を壁側の地面に向けると良いですよ。私は前の方に座って、壁側を空けておきますから…。辛くなったらすぐ、私か通訳に言ってくださいね」

やっぱりこの人はラコタ女性だ。さりげなくだが、確実にラコタ兄をサポートしてくれている。彼女がいてくれて良かった。

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スウェットが始まった。基本的に、スウェットの方法はそれを執り行う進行役によって異なる。下記に掲載するのは、ラコタ兄が進行役を務める、ラコタ式スウェットの方法である。

ラコタでは常に、4方向と宇宙と大地が自分につながっていると考える。その中心に自分というものが存在する。つまり、祈りを捧げるときは常に、7つの方向を祝福する言葉から始める。ラコタでの4方向は、西から始まる。西、北、東、南、という順番だ。

スウェットは第4ラウンドまである。

第一ラウンドは、自分達自身についての祈り。自分自身のこと、自分の持っている才能や特質、健康状態を認識する。すべて満たされていると感じるなら、そのことについての感謝を述べる。何か困っていることがあるなら、スピリット達にサポートをしてもらえるように祈る。

第二ラウンドは、両親や兄弟など近い血縁者のために祈る。自分という人間をサポートし、理解し、作り上げてくれたのは、家族なのだ。そのことに感謝の祈りを捧げる。もし家族の誰かが苦しんでいるなら、彼らがその苦しみから学びを得て、成長できるようにと祈る。

第三ラウンドは、ヒーリングのラウンド。ヒーリングが必要な人に対しての祈り。自分自身のことでも良いし、家族、友人のためでも良い。

第四ラウンドは、不要なものを手放すラウンド。私達はみんな、ネガティブな思考を持つ時がある。それらは次のステップへ進むため、成長するために必要なものだ。しかし、そこから学びを得て成長できた後には、ネガティブな思考をいつまでも持っている必要はない。だから、感謝の言葉とともに、それらを宇宙に手放してやらなければならない。

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第二ラウンドの途中で、ラコタ兄が私の肩をしきりに叩いている。ヒソヒソ声で私にこう言った。

「君に伝えなければならないことがある」

彼はこんなことを言った。

「青い光が見えるか? 君の目の前でチラチラと光を放っている」

目を凝らして、ラコタ兄の言う “青い光” とやらを見ようと頑張ったが、私には見えなかった。でもラコタ兄がそう言った時、既に私は自分の周りにスピリットの存在がいることを感じていた。

ラコタ兄はこう続けた。

「青い光は君のスピリットだ。君にメッセージを伝えて欲しいと言ってる。」

「スピリットが君に、“今取り組んでいる仕事、イエスカの仕事をしっかり続けなさい” と言っている。イエスカ (iyeska) というのは、ラコタ語で通訳者という意味だ」

それを聞いた途端、私は声を上げて泣き出した。

スピリットからのメッセージは続いた。

「イエスカの仕事は、とても重要な仕事だ。私達は君の助けを必要としている。大変な仕事ではあるが、君の歩いている道をこれからも歩み続けていきなさい。私達はいつも君のそばにいて、君を助けている。私達が君をイエスカに選んだ。君は選ばれし者なんだ」

「スピリット達が君のことを心配している。君がこの仕事をあきらめてしまうのではないかと…。自信を失ってしまっているのではないかと…。」

“You’re the chosen one.” の部分が、頭の中でエコーのように響いた。

本当のことを言うと、その時の私はすっかり自信を失っていた。

自分は全く役に立っていないのではないか? スウェットが終わったらボスに話そう。7月のツアーの通訳はお断りしよう。きっと次回は、他の人に通訳をやってもらった方が良いに決まってる…。 

そういうようなことを、ぼんやりと考えていたのだった。だからこのメッセージは、本当に良いタイミングで聞くことができた。